この一週間、TODAY!に来られた乳がん患者さんのほとんどが、北斗さんの報道について触れられ、「5年生存率50%・・・本当なんですか?」と質問されることも多かった。北斗さんの乳がん報道と彼女のブログは、乳がん患者さんたちの注目度も高い。しかし、これから治療を始める人、治療中の人、治療を終えた体験者は、一般の方とかなり受け止め方が違っている。
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皆さんは、もちろん北斗さんを応援しているのだが、この一週間で私がお伺いした患者さんの言葉からは、北斗さんに関する報道や彼女の発言がマイナスに受け止められていることも多いなーと感じた。

 

現在治療中の患者さんの中には、

「自分の病状と比較して、かなり不安になった!」とおっしゃる方も多かったし、
よく勉強している患者さんからは、
「乳がんの2B期で生存率50%というのは、おかしくないですか?」という声も。 

これから治療を始める方やそのご家族からは、
「乳がんって、やはり怖い病気なんですね」
「私も毎回検診を受けていたのに、見つからなくて…」

「生存率とか言われたら、治療をすることも怖くなり…」

「仕事を続けようと思っていたけれど、北斗さんも完全復帰してからと言われているし、大変そうなので休んだほうがいいですよね」など。

さらに、乳がん体験者(ベテラン患者さんたち)からは、電話やメール、LINEにまで、「違和感を感じている」「このままでは乳がん患者について誤解されるのではないか」などといった厳しい内容が届いた。

 

北斗さんのブログを拝見すると、毎日の状況と気持ちを細かく報告しながら、
自分もがんばろう!と意気込み、一般の方には、乳がんのことを知ってもらいたい!、患者さんたちには、共にがんばろう!と思っておられるのがわかる。

だから、彼女の報道やブログから、患者さんたちが不安になったり、マイナスに受け取ったりするのは本意ではないだろう。

 では、なぜ、治療中の患者さんや体験者の方たちが、こんな<モヤモヤ>や
<違和感>を感じてしまうのか。

 

北斗さんの場合、今は、手術後のからだの回復を待ちながら、

『病理結果』を待っている段階だろう。いわゆる「病理待ち」という時期だ。 

『病理結果』では、実際に手術で切除したものから、がんの大きさ、性質、広がりや進行度などを、病理医(←病理専門の医師)が細かく確認したものがわかる。
そして、実際のがんの性質や状況に基づき、主治医からガイドラインに沿った治療が提示され、本人の状況や希望も考慮しながら、その後の治療方針が決定される。

 ということで、いま、発表されてる内容は、手術前に少しの細胞や組織で確認したり、画像検査などでがんを外から見た内容に加え、主治医が手術したときの状況と感覚を含めて伝えられている範囲である。ざっくりした範囲の病状やがんの内容にすぎない。当然、「生存率50%」などと言うことはできないだろう。

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・乳房全摘手術(がんの位置が乳頭直下)+脇のリンパ節郭清(切除)

・腫瘍の大きさ 2.5cm

・リンパ節の転移 あり(何個転移があったかはまだ不明)

・他の臓器に転移があるかどうか 不明

・ステージ2B(医師の話では「3」に近い「2B」とのこと)

・この後の治療予定(主治医の話では)、

抗がん剤治療8回、放射線治療、ホルモン療法

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↑の内容からも、「生存率50%」ということは考えにくいのだが、

全摘手術をし、その後放射治療が必要になるのは、リンパ節の転移が複数個ある場合なので、

北斗さんの場合、リンパ節の転移数が多いか、他の臓器への転移がまだ不明、という部分で「50%」ということになったのかもしれない、が…。

 

ちなみに、患者さんへの説明で、医師が「生存率」という言葉を持ち出すのは、

・「乳がんは生存率が高いがんである」ことを理解してもらい、

患者さんに「適切な治療をすれば大丈夫!」ということを伝えたいとき。

・治療を選択するときに、ABのどちらを選べばいいかを判断する

材料として「再発率」や「生存率」が選択の助けになるとき。

いずれの場合も、患者さんの不安を煽る材料ではないし、目の前の患者さんの状況や理解度を考えながら、誤解のないように、前後の言葉も選ぶはずだ(たぶん)。

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また、医師からではなく、

・患者さんが、「私の状況で、どのぐらいの生存率ですか」などと、強く聞いた場合。

・患者さんやご家族の、がんやがん治療に対する思い込みや誤解などにより、治療を拒んだ場合や不適切な治療選択になりそうだと医師が判断した場合。

なども考えられる。

 北斗さんの場合、どのようなシチュエーションで「生存率」について伝えられたのかはわからないが、明確に病理が出ていない状況で、医師のほうから、「生存率」を重視するような発言が出ることは少ないのではないだろうか。

 

さらに、そもそも、「生存率」って正確にわかるのか、という疑問もある。
患者さんの病状と治療選択も違う中、同じ条件、同じ人数群で比較しながら、「5年生存率」、「10年生存率」を出していくのはとても難しいだろうし、乳がん治療がどんどん更新していく中で、スタート地点はどこなのかということでも違ってくるだろう。

これから最新治療を受ける人が、かなり前の治療を受けきた患者さんのデータを、そのまま自分のものとして考えるのも難しいことだ。

 

参考までに、年間1000件の手術をするがん研有明病院のホームページから

腫瘍径(がんの大きさ)、リンパ節転移の個数で比較した生存率は↓

 http://www.jfcr.or.jp/cancer/type/breast.html

これは90年以降のデータであるものの、いま最新の治療を受けている人の

この先の生存率とは異なるだろう。
 
さて、患者さんたちが、<モヤモヤ>や<違和感>を感じている理由は、
次のようなことではないかと思う。

・北斗さんが、わずかな理解や体験から、乳がんを過度に一般化してしまうこと。

・乳がんのことを知らない人たちには、彼女が発信していることが100%正しいこととして受け入れられていき、それをフォローしている人も大勢いること。

病理が出る前の今時点では、早とちりして大騒ぎしているように見え、

 一般の人たちがそれに乗っかっていくように感じられることが違和感となっている。

 

しかし、無理もない。芸能界では、ここのところがんで亡くなる方が相次いで、<がんは怖いもの>という認識の中で、がんワールドの入り口に立ったのだから。
『病理結果』が出れば、がんの状況が明確になり、治療が決まり、進んでいく。
彼女の真の力を発揮して、正しい地図を持ち、がんワールドを抜けていく旅はこれからだ。生存率○○%より、自分の力を100%信じて一歩一歩・・・。
2jpgがんワールドを抜け出す旅 
同じ患者でも、状況は一人一人違う。理解度も違う。いろいろ違うことも多いが、
「生きる真剣さ」では繋がっていけるはず。互いに足を引っ張ることなく、ときどき声を掛け合いながら、
どんなときも、愛と希望を胸に、一歩一歩前に進んでいこう!
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