週末、午後7時過ぎ、お仕事の帰りにいらっしゃったのは、患者さんのご家族。膵がんのお母様のお帽子を探しに来られた。昨年12月に、膵がんでジェムザールとアブラキサンの組み合せが使えるようになって、TODAY!にお越しになる膵がんの患者さんが増えた。アブラキサンは、乳がん、胃がん、肺がんでも使われるが、脱毛率が高いので、ウィッグや帽子が必要になる。

お母様のための帽子を一つ一つ自分でかぶりながら選んでいるうちに、お嬢さんの大きな瞳から涙があふれ出した。

「母はいつも元気で、家族や周りの人まで元気にする明るい人だったので、脱毛してあたまが小さくなって、どんどん弱気になっていく母を見ていると・・・、どうやって励ましてあげればよいかわからなくなって・・・」とおっしゃった。お嬢さんは、家族の前では泣かないようにがんばってきたそうだ。
内に固めていた気持ちを少し解いたら、氷が解けだすように涙が流れる。TODAY!は帽子やウィッグや下着やパッドを選びながら、自分の気持ちと向き合うところでもある。泣きたいときは、泣いていい。どうぞ・・・。
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「どう励ましたらいいのか、何を言ってあげたらいいのか、何をしてあげたらいいのか」家族や周りの人たちも、心配で、不安で、もどかしい。
そんなときは、特別な励ましの言葉は、むしろ、いらない。まずは、お嬢さん自身が、今のお母様を、そのままの姿で受けとめるだけでいい。
「『明るく元気なお母さんも好きだけど、治療でがんばっているお母さんも、脱毛しているお母さんも、弱気になったりするお母さんも、全部好きだよ~』って、笑顔で言ってあげてください。」と申し上げた。

周りの人のために頑張ってきた人ほど、弱気なところを人に見せるのは苦手だ。自分らしくない自分は、自分もいや。でも、身体と心がしんどいと、どうにもできないときがある。そんなときは、そばにいる人が、「そのままのお母さんでOK!なんだよー」って伝え続けながら、「やさしくて心地よい風」を送ってほしい。風は、「気」。『あなたのことを大切に思ってますよ。』という気持ち。特別なことをしなくても、やさしい笑顔だけでも、小さな気遣いだけでも、十分伝わる。家庭でも、病院でも、やさしい気持ちや笑顔がある場所は「気」が高い。そんな場所では、患者さんも心穏やかに笑顔でいられる。身体も、心も、元気と勇気が湧いてくるはずだ・・・どんなときも。やさしい風やあたたかな光を感じるような‘ひだまり’のような場所がいい。

「お母様の気持ちがUP!する帽子にしましょう!」と私が申し上げると、お嬢さんは、何度も何度もかぶり比べながら、お母さんの小さい頭にフィットするか、かぶり心地はどうか、色や形は雰囲気に合っているか、顔色を明るく、綺麗に見せるか・・・と、いろいろいろいろ吟味された。そして、チャーミングなハットと涼しくかぶれるやさしい花柄のバンダナを選ばれた。
 バンダナ帽子とネット式つけ毛3

彼女の帰宅が遅くなる日は、お兄さんがお母さんの食事を作るそうだ。「料理などしたこともなかったのに、会社から帰って、今日もレシピを見て作っているんですよ」と教えてくれた。家族全員の学びの時間。一見ハードに思えるけれど、実は、もっと深い家族の幸せにつながっていく。

「もう十分、お母様に気持ちは伝わっていますよ。」と申し上げると、お嬢さんは、やさしい笑顔で、お帽子を抱えて帰っていかれた。お嬢さんの笑顔を見送りながら、私もあたたかな気持ちで仕事を終えた。ありがとう。